I. 序(改訂にあたって)

 本ガイドラインは,近年とくに注目されるBrugada 症候群ならびに先天性QT 延長症候群に対して,疫学,診断,治療に至るまでのガイドラインとして2005~2006 年
に制定され,2007 年に公表された.しかし,初版ではエビデンスが十分でなかったため,その治療法については十分に検討がなされなかった感があった.とくに
Brugada 症候群は,アジア人種のなかでもわが国で報告が多く,以前“ぽっくり病”と呼ばれていた夜間突然死症候群の多くが含まれている可能性もあるが,
Brugada 症候群患者の20%と先天性QT 延長症候群の70 %にイオンチャネル蛋白の責任遺伝子異常を認め,イオンチャネル病に分類されている.しかし,徐々にで
はあるが,遺伝子異常が予後と直接には結びつかないことや,遺伝子異常を認めない孤立性の症例も多いことが判明してきた.

 現在まで発表されている不整脈に関する欧米のガイドラインは,特定の観点から作成されたものが主であり,本ガイドラインが作成された2007 年当時はわが国でも
エビデンスが不十分であったが,とくにBrugada 症候群ではこの数年で多くのエビデンスが報告され,わが国でもある程度のデータ蓄積がなされるに至った.

 突然死の二次予防として確実な治療は,現在でも最終的には植込み型除細動器(ICD)であるが,一次予防としてのICD 治療に関しては,現在でも各国で異なって
おり,今回の改訂版では,初版を踏まえて,この5 年間にわが国で明らかになったエビデンスをもとに変更の必要がある部分に限って改変した.

 本ガイドライン作成にあたっては,合同研究班として多くの専門家に参加を求めた.とくに小児循環器病医学の専門家にも多くの参加を得て,合同研究班の総意とし
て改訂にあたった.総論では,診断と治療に必要な基本的な知識としての臨床的特徴,予後,および発生機序を解説し,各論では従来どおり,①先天性QT 延長症候
群の診断,②先天性QT 延長症候群の治療,③二次性QT 延長症候群の診断と治療,④ Brugada 症候群の診断,⑤ Brugada 症候群の治療,の5 項目に分けて検
討し,最新知見を盛り込むことを心がけた.診断に関しては,とくに心電図などの非観血的検査,臨床心臓電気生理学的検査などの観血的検査,および遺伝子診断の
臨床的意義について検討した.治療に関しては従来と同様に薬物治療と非薬物治療に分けて,おのおのの有用性を検討した.とくに無症候性の場合は,診断と治療
が有症候性の場合と異なるため,両者を分けて検討した.

 本ガイドラインの勧告策定の手順としては,AHA/ACCおよびESC のガイドライン,わが国での報告(疫学調査,研究報告など),海外での報告(疫学調査,研究報告
など),班員の臨床経験,をもとにして作成し,具体的には最新データを加えたうえで,各診断法と治療法の適応に関する勧告の程度をクラスI,クラスII,クラスIII に分
類し,そのエビデンスのレベルとして,レベルA,レベルB,レベルC をできる限り付記した.なお,クラス分類,エビデンス分類は以下に示すとおりである.

クラス分類
クラスI: 検査,治療が有効,有用であるというエビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致している.
クラスII: 検査,治療の有効性,有用性に関するエビデンスあるいは見解が一致していない.
クラスIIa: エビデンス,見解から有効,有用である可能性が高い.
クラスIIb: エビデンス,見解から有効性,有用性がそれほど確立されていない.
クラスIII: 検査,治療が有効,有用でなく,ときに有害であるとのエビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致している.

エビデンスレベル
レベルA:複数の無作為介入臨床試験またはメタ解析で実証されたもの.
レベルB:単一の無作為介入臨床試験または大規模な無作為介入でない臨床試験で実証されたもの.
レベルC:専門家,または小規模臨床試験(後向き試験および登録を含む)で意見が一致したもの.

 また,このガイドラインの変更にあたり,現在までに報告された日本循環器学会合同研究班のガイドラインと整合性があるように考慮したが,一致しない場合はその
違いを記述した.
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【ダイジェスト版】
QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関する
ガイドライン(2012年改訂版)

Guidelines for Diagnosis and Management of Patients with Long QT Syndrome and
Brugada Syndrome( JCS 2012)