7. 遺伝子診断
 常染色体優性遺伝形式をとるRomano-Ward症候群では,現在までに8 つの染色体上に13 個の遺伝子型が報告されている(LQT1~LQT13).また,常染色体劣性
遺伝形式をとり,両側性感音性難聴を伴うJervell and Lange-Nielsen症候群では2つの遺伝子型が報告されている(JLN1とJLN2).先天性QT 延長症候群では,臨床
診断される患者の50~70 %でいずれかの原因遺伝子上に変異が同定される.遺伝子診断結果に基づく生活指導やテーラーメード治療が実践されているため,先天
性QT 延長症候群の遺伝子診断検査は,平成20(2008)年4 月1 日付で保険診療(現在,診断 4000 点,遺伝子カウンセリング 500 点)が承認されている.各遺伝子
型の頻度は,LQT1 が40 %,LQT2が40 %,LQT3 が10 %で,この3 つで90 %以上を占めるため,通常の遺伝子スクリーニングではこれらの3 つの原因遺伝子,す
なわちKCNQ1,KCNH2,SCN5Aのスクリーニングを行う.

 2011 年に,先天性QT 延長症候群の遺伝子診断に関する米国心調律学会(Heart Rhythm Society: HRS)とヨーロッパ心調律学会(European Heart Rhythm
Association:EHRA)合同のExpert Consensus Statement が発表された.これによれば,①病歴,家族歴,心電図所見(安静時12 誘導心電図,運動負荷試験,カ
テコラミン負荷試験)により先天性QT 延長症候群が強く疑われる患者,② QT 延長をきたす二次的な原因(電解質異常など)がなく,安静時12 誘導心電図で補正QT
(QTc)間隔> 480 msec(思春期前),または> 500msec(成人)の無症候患者では,遺伝子診断はクラスI の適応である.また,③ QT 延長症候群遺伝子に変異が
同定された発端者の家族構成員における変異部位のスクリーニングもクラスI の適応としている.さらに,安静時12 誘導心電図でQTc > 460 msec(思春期前),また
は> 480 msec(成人)の無症候患者では,クラスIIb の適応としている.

 いずれの遺伝子型でも,心室筋活動電位プラトー相の外向き電流が減少(loss of function)するか,または内向き電流が増加(gain of function)することにより活動
電位持続時間(APD)が延長するためである.LQT1 とLQT5の原因遺伝子であるKCNQ1(αサブユニット)とKCNE1(βサブユニット),およびLQT2 とLQT6 の原因遺伝
子であるKCNH2(αサブユニット)とKCNE2(βサブユニット)は,それぞれ複合体を形成して遅延整流K+ 電流(IK)の遅い活性化の成分(IKs)および速い活性化成分
(IKr)の機能を示し,これらの遺伝子変異によりIKs またはIKr の減少をきたす.LQT3 の原因遺伝子であるSCN5A は心筋タイプNa+ チャネル遺伝子であり,その変
異により活動電位プラトー相で流れるlate Na+ 電流(INa)が増強する.

 先天性QT 延長症候群で頻度の高いLQT1(40 %),LQT2(40 %),LQT3(10 %)患者では,遺伝子型と表現型(臨床的特徴)の関連が詳細に検討されている.こ
れにより,遺伝子型特異的な心電図異常(T 波形態),Td P(心事故)の誘因,自然経過,予後,重症度の違いなどが明らかとなり,遺伝子型に基づいた患者の生活
指導がすでに可能となっている.また,遺伝子型特異的な抗不整脈薬による薬物治療,ペースメーカや植込み型除細動器(ICD)などの非薬物治療も実践されている.
III. QT先天性延長症候群の診断 > 7. 遺伝子診断
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【ダイジェスト版】
QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関する
ガイドライン(2012年改訂版)

Guidelines for Diagnosis and Management of Patients with Long QT Syndrome and
Brugada Syndrome( JCS 2012)